「小さい子がいても参加できた」──オンライン開催でも対話しやすく、濃い議論 市民フォーラムの新しい試金石に

白岡市の柴山沼 撮影 : 京浜にけ

東京都心から約40km、ベットタウンとして成長を続けてきた埼玉県白岡市。市内に2つあるJR宇都宮線の駅から東京へは約40分と好立地でありながら、緑豊かな自然も多く残っており「住みよさ」に定評があるまちです。人口は概ね右肩上がりで推移し、現在は約52,000人が暮らしています。

市では、2016年から住民と共にまちの未来を考える場として「市民フォーラム」を新しく始めました。東西に長い特有の地形の影響で、中心市街地とその周辺地域とのあいだで生じてしまっている公共交通機関や買い物環境の格差などをはじめ、地域の課題について、住民の生の声に耳を傾けています。しかし、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、会場でのフォーラム開催は断念。偶然にも初のオンライン開催となったフォーラムで導入されたのが「ローカルダイアログ」でした。

同市の総合政策部企画政策課の安野隆三さんは、「カードを使ってゲーム形式で市民の声を可視化できて、素直に面白いと思いました」と導入の経緯を話します。オンラインでの導入に不安はなかったのか。その過程や成果を伺いました。

▼導入の背景

──なぜ「ローカルダイアログ」を導入したのでしょうか?

ローカルダイアログを紹介いただいたとき、「カードを使って、ゲーム感覚でまちづくりワークショップができる」と聞いて、素直に面白そうだなと思いました。

これまでの市民フォーラムでは、グループ分けをしたら「白岡の現状と課題について話してください」「課題と思われることを発表してください」「それを解決するには、どう行動すればいいと思いますか」というように、かなり自由に議論してもらう形でした。でもローカルダイアログは、カードに書かれたいろいろな問いを使いながら議論を進める。これまでの経験からも、ワークショップをよりよくできるのではないかと思いました。庁内からは「本当に効果あるの?」という声もありましたが、自分の中で「うまくいく」と確信がありましたね。

──2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、会場でのフォーラムは中止になりました。いきなりオンラインでの導入となりましたが、不安はありませんでしたか?

オンラインは今回が初めてだったので、「本当にできるのか」という漠然とした不安はありました。でもまずはやってみなければと、若手職員を対象に対面でローカルダイアログの体験会をしたんです。

ローカルダイアログはオンラインでも開催が可能

使ってみて思ったのは、カードに書かれた問いが議論の方向性を明確にしてくれるということです。問いも豊富なので、いろいろな分野の意見を聞くことができる。全国の自治体の意識調査をもとにしているということで、問いの設定にも納得感がありました。参加した職員からどんどん意見が出てくる様子をみて、これまでとは違うなと手応えを感じましたね。オンラインを想定しても、カードさえ画面上に表示できれば、十分にワークショップはできるなと感じました。

市民とオンラインでどうつなぐかという課題もありましたが、そこは委託業者に入ってもらうことで解決しました。市民にどうやってZoom上に集まってもらうのか。議論でグループ分けをしたとき、オンライン上でどう部屋を分けるのかなど、2〜3回のリハーサルすることで解消できました。

▼導入の成果

──今回の参加者は10〜60代と広く、属性も学生や子育て世代、引っ越してきた人、ずっと住んでいる人など、さまざまな方が参加されたと伺いました。オンラインで実施して感じた大きな変化は何でしょうか?

Zoomを使うことを前提に募集をかけた影響もあったのか、例年の市民フォーラムとは違って、10〜30代の若い世代、そして初参加という方が多かったですね。これまでは50〜70代の方が中心だったので、若い世代の声を聞くことができたのは何よりの収穫でした。

老若男女を問わない「参加しやすさ」もローカルダイアログの特徴だ

オンライン開催は、市民の方の反響もよかったです。印象的だったのは、子育て中の方がアンケートに書いてくださった意見です(以下、市実施のアンケートより抜粋)。

「小さい子がいても参加できたので、オンラインで良かったです。以前、子連れで市内で開催された研修会や講演を見に行った事があるんですが、途中で子供がグズってしまって、結局途中で帰らなくてはいけなかった事がありました。まだ小さい子供がいたとしても、このようなイベントに参加できることは、他の方も嬉しいんじゃないかと思いました」

これは本当にオンラインならではのメリットだなと感じました。ワークショップについても、「難しいテーマでも、オンラインでワークショップができることに感動しました」「白岡の今と将来についてすごく考えやすかった」「内容が濃かった」など、参加者のみなさんに満足いただけました。

そういった点では、いつものフォーラムよりも内容が充実していたかなと感じています。

──今回のオンライン実施に関して、市側の反応はいかがですか?

オンラインということで、ワークショップの様子を市役所のモニターに写して、市長・副市長や担当の部長・課長にもリアルタイムでみてもらいました。

我々は通常のフォーラムに参加しても、後方から見守ることが多いので、参加者が議論する様子を間近で見ることは少ないんです。しかし今回はオンラインということで、いつもは思うように聞けない市民の「生の議論」をモニター越しではありますが、遠慮なくみることができました。市長や副市長は、そういった点で「もっとやろう」とオンラインに前向きでしたので、思わぬメリットがあったなと感じています。

▼今後の展望

──今後、思い描いていることがあれば教えてください。

毎年、こども会議というのもフォーラム形式でやっているんですが、今後はそういったところでも実践してみたいなと思いました。ローカルダイアログなら、カード形式ですし、中学生くらいからできると思います。子どもたちって結構、面白い意見をだしてくれる。核心をつくような意見もありますよね。

今回のワークショップで出た意見は、令和4年度に向けて策定準備を進めている「第6次白岡市総合振興計画」に練り込んでいる最中です。「誇りを持つ」「愛着」「チャレンジ」など、ワークショップで多く出てきたキーワードをうまく抽出しながら、市民のみなさんの声を反映していければと考えています。

▼白岡市の豆知識

白岡市は埼玉県の中東部に位置する市で、人口は約5万2千人。

・2012年10月に単独で市制に移行し、白岡町から白岡市へ。

・埼玉県内でも有数の梨の産地。甘くてジューシーな梨は、「白岡美人」という愛称で呼ばれている。

・2014年に東洋経済新報社が発表した「住みよさランキング2014」では、県内で1位、関東でも10位にランクイン。

・圏央道の白岡菖蒲ICがあり、車でのおでかけにも便利。