「地域の声を拾えているか疑問だった」──従来の住民懇談会から脱却、住民から求められる「対話の場づくり」

岩内港 撮影 : 柴田拓

岩内町は、北海道西部の積丹半島の付け根に位置する人口12,000人ほどの港町です。ニシン漁で大きな財をなし漁業や水産加工業で栄えた町も、近年は出生数が年間100人を切り、人口も毎年300人のペースで減少。多くの地方自治体と同様に、少子高齢化などさまざまな課題を抱えています。

町では、2019年の新町長の就任をきっかけに、新たに総合振興計画を策定することになり、2020年から「ローカルダイアログ」を導入しました。2021年1月までに、町の職員や住民を対象に、16回のワークショップを実施。住民側から「継続してほしい」と声が上がるなど、手応えを掴んでいるといいます。同町の経営企画部企画財政課・主幹(兼)地域創生係長の松田晃一さんに、導入の背景や成果について、お話を伺いました。

▼導入の背景

──なぜ「ローカルダイアログ」を導入したのでしょうか?

町の新しい羅針盤となる「総合振興計画」を策定する上で、まず「暮らしている人たちが自ら住み続けたいと思える」ビジョンを住民とともに作り、共有することが何より大切です。住民との対話の場というのは、町にとって欠かすことのできない要素で、これまでも住民懇談会や住民説明会などを通して、声に耳を傾けてきました。

しかし、従来の方法だと、どうしてもネガティブな意見が先行し、声の大きな人の意見が目立ってしまう。紛糾することも多く、職員側もそれを受けるのが精一杯。「本来、吸い上げるべき立場の人の声を拾えているのだろうか」と疑問を抱いていました。

役場内でも長年、新しい対話の形を作ろうという声があったのですが、具体策がなく、棚上げ状態でした。そんな中で、「ローカルダイアログ」を知り、これなら解決につながるのではないかと導入を検討しました。

──導入を後押ししたものはありましたか?

まずは手始めに、部署内でファシリテーター研修を受け、役場内の若手職員向けに「ローカルダイアログ」のワークショップを実施しました。まちづくりのワークショップによくある〈付箋に意見を書く〉〈似たものを分類する〉〈それをもとに議論する〉という形ではなく、用意されたカードを使ってYES/NOで意思表示をしたり、参加者全員が意見を述べる機会が準備されていたりと、「いつもと違う」と参加者からも好評で、これはイケると思いましたね。

住民へは青年会議所など、まちづくりとの関係性が深い団体からワークショップを始めていきました。その中でも、まちづくりに熱心なお寺の住職さんから「是非続けるべきだ」と声をいただけたのは、大きな後押しになりました。「どんどんやったほうがいい。役場の人がもっと町に出て、もっと町民の声に耳を傾けていくべきだ」と。日々のお参りで檀家さんや、住民との対話を実践されている住職からのお言葉は心強かったですね。

▼導入の効果

──住民とのワークショップでは、どんな声を聞くことができましたか?

これまで高校生から子育て世代、老人クラブまで、幅広い年代で全16回のワークショップを実施し167人の方に参加頂きました。住民からは「普段しゃべっていることだけどいいの」なんて声もいただきますが、こちらはソコが聴きたいと。例えば、老人クラブの方からは、福祉に対する要望よりも、「もっと若い人が活躍できるようしてほしい」という声が多く、私たちの想像とは違う声に驚きもありました。

1つ苦労しているのは、時間の問題だけですね。どうしても盛り上がって長くなってしまうので(笑)。子育てを終えたお母さんたちを対象にやったときは、18時にはじめて、終わったのは22時30分過ぎでした……。でもそれくらい、濃い意見をいただけています。

──導入の前後で感じている変化はありますか?

何より感じているのは、対話の場がフラットになったということです。これまでの住民懇談会などでは、町と住民とで対立的になりがちだったのですが、「ローカルダイアログ」は前向きな設問設定から始まるよう設計されているので、自然と議論も前向きになっていくんです。

──町の政策には、どのように反映していく予定ですか?

ワークショップで出た意見は、町の強み・弱みに分類して、データベース化しています。それらをSWOT分析した上で、町の総合振興計画に登載する施策に反映していきたいと考えています。さまざまな世代から、さまざまな意見をもらっているので、それらのデータを蓄積していくことで、今後、町がどういった政策を打つべきか、その優先順位をつける際に役立てていきたいです。

ワークショップの結果をデータ化し、可視化することができる

また導入をきっかけに、住民と直に顔を合わせることが増え、地域の課題とセットで、プレーヤーの顔が見えるようになってきました。例えば、シャッター街になっている商店街の活性化は課題としてずっとあったのですが、そこにコミュニティスペースを兼ねたゲストハウス&カフェバーをオープンしたいという人がいることが分かりました。しかも「将来は町の子どもたちが働ける場を創りたい」と。行政としては、そういう動きがあると分かれば、後押しもしやすいですし、もっとチャレンジしやすい環境を創り出す施策のきっかけにもなります。

職員にとっては、そういった地域のキーマンとのネットワークを広げるきっかけにもなっていますね。高校生とのつながりもそうです。ワークショップをやった後に町で会うと声をかけてくれたり、地元高校と地元企業、町との連携企画も多くなりました。

▼今後の展望

──今、どんな町の未来を思い描いていますか?

「誰もがやりたいことが実現できる町づくり」に向けたきっかけにしていきたいと考えています。世代・世代でニーズは違いますが、高校生にとっても、子育て世代にとっても、高齢者にとっても、お互いに共感しあえる「寛容なまち」になっていけばと思います。

そのためにも「ローカルダイアログ」を継続して、住民と対話を続けていきたいです。役場色をなるべく薄くして、若い世代から高齢者まで町なかのさまざまな世代で「ローカルダイアログ」をやっていきたい。人と人を繋ぐ「場」づくりの「魔法のツール」だと思います。住民から「また集まりたい」と言われる、そんな「繋ぎ場」を創っていければと考えています。

▼岩内町の豆知識

・小樽市、余市町、ニセコ町などと同じ、北海道西部の後志(しりべし)管内に位置する地方都市。札幌へは車で1時間30分ほど。町の中心部から海、山へは車で10分でアクセス可。海ではシーカヤックやSUP、山では登山やキャンプ、冬場はスキーやスノーボードを楽しめる。

・1871年、北海道で初めて野生のホップ(ビールの原料)が発見された地でもある。発見年が、なんと1(イ)8(ワ)7(ナ)1(イ)。現在、ホップを活用したオリジナルクラフトビールの開発を検討中。

・アスパラガス発祥の地でもあり、町内には「アスパラの坂」がある。

・北海道における水力発電発祥の地でもあり、歴史的にも電気と関わりが深い。

・町のマスコットキャラクター「たら丸」は、全国ゆるキャラ選手権で2位!